しかし彼が気づいた時には既に遅かった。
鎌を振るっていた彼女は突然動きを止め瞳を閉じる。
声が届いたのかと安心しかけたが、開かれた瞳の色を目にした瞬間彼は息を呑んだ。
その瞳は先程とは異なるもの。
血のように赤く染まるそれは、紛れもなく狂ったあの時と同じ瞳の色だった。
「…フフッ……ハハハッ…ハハハハハッ……」
闇へと手を伸ばし、身を任せた彼女は血に狂う。
自我を失った彼女は突然声を上げ笑い出したかと思うと笑みを消し、コウガを暫く睨むと唇を舐め妖艶に微笑んだ。
ドキリと胸が騒ぎ、警戒するように目を細めると彼女は地を蹴り彼の目の前に移動する。
先程とは比べ物にならない速さ。
振り下ろされた鎌を何とか交わすが、攻撃は止まらない。
「…クレア…しっかりしろ……!」
剣を手にする事なく応戦し、何とか傷つける事なく彼女を止めようと試みる。
右から、上、真横、斜め、次々に繰り出される攻撃に身を捻り、後ろに跳びながら回避する。
しかし、後退し続けた彼は木の幹に背をぶつけ逃げ場を失ってしまった。
「…お遊びは、終わりだ……」
「くっ……」
追い詰めた彼女は口の端をつり上げ笑い、獲物を仕留めるべく鎌を振り下ろした。

