窓から差し込む夕日を浴びながら、階段を登るシェイラは一度キッチンを振り返る。
しかしそれ以降振り返る事も足を止める事もなく、二階の部屋の前に辿り着くと扉を叩く。
返事のない部屋の中に入ると、彼女の長い髪を風が揺らした。
「…クレアさん?」
ベッドで寝ている筈の彼女だが、その姿はそこには無く、カーテンを揺らす窓の傍に立っていた。
シェイラの声に振り返ると、彼女は無表情のまま頭を下げた。
「もう動いて大丈夫なのですか?」
「…問題ない……」
頷く彼女は窓枠に腰掛け外を眺める。
重体だった彼女。
こんなに早く目を覚まし、何事もなかったように動いている。
本当に大丈夫なのか心配していると、クレアはシェイラへと視線を向けた。
「…ありがとう、助けてくれて……」
「え……?」
クレアの言葉に驚き声をあげたシェイラ。
窓枠から降りシェイラと向き合うと表情を変える事なく言葉を続ける。
「貴女が治癒してくれなければ、私は今生きていなかった。だから、助けてくれて、ありがとう」
出会ってから今まで、彼女とは距離を感じていた。
自分に心を開いてくれていないような、そんな感じ。
しかし、無表情で感情を露わにしてはいないが、少しながら彼女に近寄れたような、そんな気がして、シェイラは嬉しくなって笑みを零す。
「そうだ、お腹空いていませんか?林檎を切ってあるんです。直ぐに持ってきますね」
胸の前で手を合わせ、にこやかに微笑みながら部屋を出ようとするが、クレアはそんな彼女を制する。
「今はいい。少し、1人になりたいんだ。だから…… 」
ごめんと頭を下げると窓枠に片手を添え飛び越える。
何の戸惑いもなく飛び降りた彼女に向けるシェイラの瞳はどこか悲しそうな色をする。
「そうですよね……放っておいてほしいですよね……」
銀髪を風に靡かせ、夕日の中に消えたクレアの姿を見送る。
1人残された彼女は寂しそうに呟くが、大きく息を吸うと負の感情を吹き飛ばす。
そして笑顔を顔に広げると、リビングに降り皆の帰りを待つのだった。

