綺麗な満月の昇る夜、冷たい風が廃墟となった屋敷の中を吹き抜ける。


誰も居ない筈のこの廃墟の中を、小さな光が揺らめいた。




 「こんな所で何してる」


蝋燭を片手に暗い廊下を歩く男は部屋の前で座り込む少女に声をかける。


膝を抱え身を縮めるようにしていた彼女は埋めていた顔を上げ男性を見上げた。




 「あぁ、ナギ待ちか?」


自己中な妹を待っているのだろうと思ったのだが、彼女は何故か舌打ちをし立ち上がると彼を睨んだ。




 「僕がカナ姉を待ってるんだ」


 「ん?じゃあお前がナギか?」


 「そうだよ、いい加減覚えなよ」


腕を組み腹を立てる彼女に謝り頭を撫でると、部屋から彼女と瓜二つの少女が現れた。




 「ごめんねナギちゃん、待たせちゃって。あれ、スティングさん、こんばんは」


柔らかい雰囲気の彼女は頭を下げ、ナギの傍に駆け寄った。



彼女達はカンナとナギ。

艶やかな黒髪を鈴のついた髪飾りで1つに結った、巫女束装の少女である。


身長すらも同じな彼女達は鏡に映したように瓜二つ。


たった1つ違う箇所と言えば、口元の黒子の位置。

カンナは右下に、ナギは左下にあるのだが、はっきり言ってわかりずらい。


だから何時もこうして間違えてばかりなのだ。




そして彼女達に声をかけたこの男性はスティング・ロッド。

茶髪に切れ長な黒の瞳、右頬に大きな傷跡のある長身の彼は大剣を武器とする。



彼等は呼び出されたのか、同じ部屋へと向かっているようだ。




蝋燭の灯りを頼りに階段を降りると、リビングからバイオリンの音色が聞こえてきた。


数本の蝋燭が薄暗いリビングをほのかに明るく照らす中、悲しい音色を奏でる女性の姿が1つ。



瞳を閉じ、懸命にバイオリンの弦を弾く彼女の演奏は、3人が部屋に入った所でタイミング良く終演を迎えた。