Blood Tear



それにしても、記憶を失って彼女自身辛いだろうに、何事もなかったようなこの態度。


まだ幼い少女なのに、強い子だと関心し頭を撫でる。


すると彼女はその手から逃れようと身を捻った。




 「な、何をする、止めぬか!」


 「嫌、まだ小さいのに偉いなと思って」


 「ふんっ、我を誰だと思っておる。我はセルビア・フォールン、神をも越える力をーー」


 「んん……」


頭を撫でられるのが苦手なのか、コウガの手を払うと彼を睨む。

そんな彼女に謝り手を離すと、鼻で笑い胸を張る。

堂々と話す彼女だが、話の途中で何かに気づき言葉を止めた。



彼女の瞳に映ったのは、左目の眼帯に手を添えるリオンの姿。


左目が痛むのか手を添えたまま辺りを見渡す。




 「調子はどうだ、まだ身体は痛むか?」


問いかけながら歩み寄るセルビア。

慣れない狭い視野に目を細め、近寄る彼女をじっとリオンは見つめる。




 「…セルビア……」


隣に辿り着いた彼女の名を呟くリオン。


名を呼んだ瞬間、彼の頬を伝う涙。


記憶の無い彼女は何故泣くのか分からず、コウガに助けを求め振り返るが、彼女の身体は背中から倒れていった。




 「良かった……生きていたんですね、セルビア……」


目の前の彼女に抱き付いたリオン。

動揺するセルビアは突然の事にバランスを崩し、空いた隣のベッドに倒れたようだ。



自分の上に乗り抱き付く彼を放そうと起き上がるが、涙を流し続ける彼を目にしその手を止めた。




 「貴女まで失ったのではないかと、もう会えないのではないかと、そう思っていました……でも良かった…また会えて、貴女が生きていて、本当に良かった……」


頬を染め涙を流し微笑むリオン。

そんな彼を目にしたセルビアの瞳から零れる雫。


彼が涙を流す理由も、自分の頬を伝う雫の意味さえ今の彼女では理解できない。



しかし、記憶を失ってしまった彼女でも、心を許した親友の涙に何かしらの感情を覚え涙する。




 「我も感謝する。我の為に涙を流してくれてありがとう、我が友よ」


涙を流すセルビアは幸せそうに微笑みながら彼を抱き締めた。