走り出した車を見送りながら、百合は虚しさに襲われていた。

私はいつまでこの人を諦められないのだろうか。

恭が私の部屋に一度も寄らないということは、しっかりと線を引かれていることだと分かっているのに。



アパートの階段を上がり、自分の部屋に入る。

冷蔵庫に手を伸ばしてミネラルウォーターを取り出した百合は、冷蔵庫の中にある大きな器に視線を向ける。

恭が紅茶を飲みに寄ってくれたら、この器を冷蔵庫から出して、自分の手料理を彼に食べてもらおうと思っていた。

手料理を作ったから来てくれ、などと言ったら、きっと今日会うことも出来なかっただろう。

百合はラップの掛かったその器を取り出し、テーブルの上に置いた。
 
いい加減に諦めればいいのだ。

高校生のときからもう十年も振り向いてくれない男なんて。

でも諦めてしまったら、明日から何を目標に生きればいいのだろう。