「どうして言えなかったの? もっとはやく突き放しちゃえば、恭は楽だったでしょ」 恭司は苦笑いをした。 それを見て、百合は思う。 やっぱり私の一人相撲だったのだと。 「そうしようと思ったことは数知れず。でも、突き放すには惜しかった」 「え?」 「もう二度と会えないかもしれない綾より、俺のことこんなに想ってくれている上野の手を取る方が俺にとって幸せかもって、思うだろう。お前、可愛いし」 恭が私をお前と言ったのは初めてかもしれない。 私を可愛いと言った。 百合は頬が上気してくるのを感じた。