「恭、なんかいいことあったの?」


百合は恭司の表情を見ながら、彼に訊いてみた。

恭司は椅子を下におろす手を止めて、百合を見た。

一瞬、申し訳なさそうな表情をしたものの、真っ直ぐな眼で百合を見つめた。


「俺、一人の人をずっと待つ気持ち、自分も味わったから前よりは分かるつもりでいる。だから上野の気持ち、俺がどうこう出来るものではないって思った。それにさ、ずるいけど、俺は一人になるのも辛かったんだと思う。だから煮え切れない態度だったかもしれない。でも、心の奥では決まってたんだ。俺の中から綾が消えることはないって。それだけは、はっきりしているのだったら、俺は上野の好意に甘えちゃいけないんだってね。本当はもっと早く、向き合って言うべきだったと思うけどな。言えなかった」