「電話? ごめん、気付かなかった」


大輔のその一言と頭を掻く仕草を見て、安堵感がどっと押し寄せてきた。

泣くつもりはないのに目頭が熱くなってくる。

この人は私を無視したりしない、絶対に。

自然とそう思えた。


「こんな時間に百合がここにいるのは不思議だな――、なんかあったの?」

 
大輔は百合の様子がいつもと違うことに気付き、表情を窺うように百合の顔の高さまで自分の顔を下げた。

百合は大輔の首に両腕を回し、その体に抱きつく。

突然のことに一歩後ずさりながらも、大輔は百合の体を受け止めた。

その瞬間、百合には自分が欲しがっていたものが分かった気がした。

自分だけに許される温もりがここにある。

素直にそれを嬉しいと思った。無くせないと思った。