大輔さんが自分以外の誰かを好きになる――。

それは今の自分が恭以外の誰かを好きになるほど、あり得ないことだと勝手に信じていた。

でも、現実に今まではほかの女の名前は「静」くらいしか出てこなかった大輔の口から、名字ではなく「綾さん」と言う名前が頻繁に出てくるようになった。

そのことが自分でも不思議なくらい不愉快なのだ。


冷静に考えれば、大輔さんとあの河原綾がくっついてくれると、恭が自分に振り向いてくれる可能性がぐっと高くなる。

大歓迎な話のはずだ。

思考が巡る。

(もしかしたら、大輔さんは私のために恭と河原綾を引き離そうとしてくれている? いや、それならあの二人を再会させるはずはない。だとしたら、大輔さんは私よりあの女の方を好きになり掛けているのかしら――)

喜んでいいはずが、それどころか、ますます悔しさが増していく百合は、綾を憎らしく思うと同時に、恭司と大輔のどちらを捕られるほうが嫌なのか、自分の心の中がはっきりしなくなっていることに気付いた。