「もしもし」 耳に聴こえたのは、父親の声ではなく、女性の問いかけるような「もしもし」だった。 仕事モードになっていた心がふっと甘い空気に包まれる。 「――綾?」 「うん」 最初の一言だけで綾だと分かった自分に恭司は少し驚いた。 「仕事、終わったの?」 「うん。終わってからメテオに寄ってみたんだけれど、もう閉まっていたから。こんな時間にごめんなさい」