ギィ。

扉を開ける時、不気味な音がした。

僕は怖いと思っていた。

それなのに。

心のすみでは好奇心で埋め尽くされてい た。

早く。

この屋敷の中身を知りたい。

見たとき、なんとなく図書館と思ったけ ど。

それが本当か知りたい。

「あなたは誰ですか?」

足音もしなかった。

気配も感じなかった。

気づいたら彼女はいた。

現実では考えられないロウソクを持ってい た。

あたりも暗かったから彼女の顔が怖く感じ た。

「僕は…」

彼女はじっと僕の顔を見る。

「ユウです。あなたは誰ですか?ここは何 ですか?」

彼女はほっとしたように表情を崩した。

「ここは図書館です。私の名前は……ありま せん」

「ない?なんで?」

人は生まれたら名前をもらう。

はずなのに。

この人にはない?

なぜ?

「電気見つけますね」

パチン

スイッチがオンになる。

ゆっくり明かり点いていく。

じじ…

彼女はランプに火をつけていた。

その音、光が懐かしいと僕は思った。

なぜそんな風に感じたんだろ。

「どんな本をお探していますか?」

「本…?」

「本をお探しになってるんじゃ…そうでし た。あなたは紛れ込んでしまったのでした ね」

一瞬、笑顔になったのに。

また寂しそうな顔になった。

「あちらが出口です」

彼女は指を指した。

その向こうには扉があった。

黒い扉。

僕が帰ろうとしたら。

「あのぉ…」

いつの間にか後ろにいた。

彼女は僕の服の裾を持ってうつむいてい た。

「久しぶりに人に会ったんです。ちょっと 話しませんか?」

耳まで真っ赤にしていた。

可愛いな。

見たときはクールビューティだなって思っ たけど。

この人は寂しがり屋なんだ。

「いいですよ」

二人きりの話が始まった。