特進クラスは、授業の時間が長く、その日私はひとり、帰宅しようと校舎を出るところだった。

(あれは…………)

同じクラスの、西尾さん?

まるで校舎の物陰に隠れるように、何かを拾い集めている同級生が目に留まった。
(何してんだろ…)

その姿が気になったので、私は声をかけた。

「西尾さん」

「きゃあっ!」

よほど驚いたのか、手に持っていたものを落とし、まるで怯えたように私を見ていた。

「どうかした?」

「いや、その…」

辺りを見れば、散らばった本やノート。
(何これ…)
どうみても、故意にやられたとしか思えないこの光景に、私は自分と重ねずにはいられなかった。

「手伝うよ」

「でも…」

「いいの、カバン貸して」

ただ、無言でそれらを拾い集め、それらをカバンにしまった。

「ごめんね、吉野さん」

「いいよ」

未だに怯えた目をした彼女は、それだけ言うと、逃げるように校門へ駆けていった。


(いじめられてるのかな…)

だとしたら、胸につかえるものがある。

よく似た経験をしたからだろうか。
それもあるだろうけど、私は知ってるんだ。


そこから救われたことの喜びを。

拾い忘れた赤ペンを見つけ、軽く土を払い、大事にポケットにしまった。


―――あの日の私を、今度は“私が”救ってみせる―――