「……うぅ……ん?…」

手のひらにあたる、ざらざらとしたものに違和感を覚え、私はゆっくりと目を開けた。

暗く、砂と埃臭さに上半身を起こした。

(やばい、寝ちゃってた―…)

体のあちこちに付いた砂を払いながら、中腰ほどの高さしかない遊具の中から外へ出た。

走り続け、しまいに疲れきった私は、見たこともない場所を歩いていた。
私の足で行ける場所なんて、たかが知れてるのだろうけれど、見たことも来たこともない場所に辿り着いたことが、私の中では快挙だった。

疲れきった身体とは裏腹に、心は妙に高揚していた。

あてもなく歩き続け、見つけた終着点は、住宅街の暗闇にぽつんと照らされた公園だった。

ドーム型になっている滑り台の中に潜り込み、しばらく休憩しようと思っていたら、眠ってしまったようだった。


今何時ぐらいだろう。
捜してるよね、お父さん。

総二郎、花火楽しかったかな。
あ、りんご飴、食べ損ねた。

(帰らなくっちゃ―…)

行きとは裏腹に、疲労困憊で、足取りはおぼつかない。

来た道ぐらいはなんとなく覚えてるけれど、行きよりさらに闇は深く、こっちであっているだろうかと、心配になってくる。

時間はわからない。
帰り道も曖昧で―…。

飛び出してきたことに、今更ながら不安を覚える自分の身勝手さに、自嘲的な気持ちになった。

母親との関係、それを悪化させたのはまぎれもなく、正面から向き合うことを避けた自分。

それを母のせいだと言わんばかりに怒り、返ってきた言葉に腹を立てるなんて。

結局私は、まだまだ子供なんだ―…。

こんなちっぽけな反抗ぐらいしか出来やしない。
しかもそれすら、自ら帰宅しなければならないほどで、気持ちはとてもやるせない。

(早く、大人になりたいな―…)

そんなことを考え、自ら飛び出してきた場所へ帰りたがってる自分の身体を、疲労と戦いながら、休むことなく動かせ続けた。



「ちょっと、そこの君―…」


そしてようやくこの疲労から開放されたのは、もうすぐ日付が変わろうというときだった。