「……………好きだね、私の髪」

「うん」

眠そうに目をとろんとさせ、しまいには目を閉じ、ゆっくりした動きで指先で遊んでいた。


私はそんな総二郎の手をずっと見つめていた。


(あ、傷…)

総二郎の右手の甲には、5cmほどの縫い傷がある。


私はそれから目が離せずにいた。


そっと手を伸ばし、指先でそれをなぞってみた。


(………痛かったよね)


何度も往復していると、


「………くすぐったい」

「うん」


そう言う声が聞こえたけど、私はその傷から目を離さなかった。

総二郎も、私の手をふり払うことはせず、されるがままになっていた。


しばらくの沈黙。
遠くで体育の授業でもやってるんだろう、笛の音。

私の髪に絡まったままの、総二郎の指。

私の、総二郎に触れる手。


私もゆっくりと目を閉じた。

感触だけを確かめながら。



「……………の……」

総二郎が何か言った。


意識を傷にばかり集中していた私は、聞き取れず、もう一度目を開け、総二郎を見た。


目を閉じていた総二郎は言った。



「あおの色…」

それきり、また総二郎は寝息をたて始めた。


あぁ、もしかして総二郎も思い出してたの?

あの頃を。