「それだけ?」

南は相変わらず視線を合わせようとしません。ぶっきらぼうな答えは続きます。

「ああ、そうだ。俺は将来医者にならなきゃいけないんだとさ。それには今から勉強して大学に行かなきゃならないんだ」

吐き捨てる様に言った南の声は、何となく諦めに似た響きが有りました。

「――ふうん。あんた勉強、好きなの?」

「好きとか嫌いとかの問題じゃ無くて、そう決まってるんだ」

「決まってる――の?」

「ああ、選択肢は無い」

南はそう言って再び大きな溜息を一つ。

リンダはその様子を見て、こいつは、やっぱり可哀そうな奴なんじゃぁ無いかと思いました。憧れの地である地球で何不自由無く暮らしている筈なのに、こいつを見た限りでは、あまり羨ましく無い様に感じられます。

リンダは地球に対する想像が急激に凋んで行くのを感じました。

「――たとえば、だけどさ」

「なんだよ」

「もしね…もしもお医者さんにならなくても良いって言う事になったら、あんた、何になりたいの?」

南は、その問いに一瞬戸惑いを見せ、口を開きかけたのですが、直ぐに何かを思い直して黙り込んでしまいました。リンダは空を行く小鳥を見上げます。


そして沈黙…


「のどか――だな」