「――無駄に汗かく様な事はしたくない」

南はそう言って携帯をいじる事を止めようとはしません。でも今回はリンダも負けて居ませんでした。

「ほら、折角、牧場に来たんだからさ、ちょっとやって見ようよ。きっと良い思い出に成るわ。レポートだって書かなきゃいけないんでしょ?」

リンダの「良い思い出」と言う言葉を聞いて南は無表情に答えます。

「そんな思い出、俺には必要無いし」

無表情な南にリンダは必至で食い下がります。

「もう、そう言わないで、やって見ようよ、意外と楽しいんだから、動物の世話って」

リンダはとびっきりの笑顔でそう言って、南にフォークを押しつけます。南はそれを受け取るには受け取りましたが、やはり何もしようとはしません。相変わらずリンダの事をぼんやりと見て居るだけでした。

「ほら、こうやって…」

リンダは一輪車に積み込んだ干し草を両手いっぱい抱え上げ、牛達のねどこにばさっと敷きつめて行きます。その作業をしながら、ちらちらと南の方に視線を送りますが相変わらず彼はぼんやりとその光景を眺めるのみでした。

「ん、もう…」

リンダはくるりと南に向かって振り向くと腰に手を当て仁王立ち、そして、思い切りこう叫びました