お墓に着いた時、目に飛び込んできたのは父さんが泣いているところだった。
言葉が出ない、開いた口が塞がらない、鬼の目にも涙、いろんな言葉があるけど、それでは表現しようのない感情が私の頭の中を支配する。
「あれ…なんでだろう…ははは、涙が…勝手に……いままでどうってことなかったのにな…どうしてなんだろう…どうして……急に………涙…が…」
私は、勝手に足が動き出していた。ここから逃げたかった。何故か、涙があふれてくる。止められない。
今、理解した。
お母さんが死んだ、ということを本当の意味で。母が死んだことを、私は心のどこかで否定していた。現実味を帯びた今、初めて母が死んだことを理解した。
「……死んじゃった…もう遅い…一回くらい、お母さんと最後に話したかったな…」
独り言をつぶやくたびに、私の心は締め付けられた。
落ち着きを取り戻すのに、そう時間はかからなかったものの、涙の跡が消えない。このままじゃ、お墓の前に戻れない。父さんに…合わせる顔がない。
「でも…戻らなきゃ、最後のお別れを…言わなくちゃ」
自分の心に言い聞かせ、墓前に向かうことにした。


