「…さっきのことですが…おかしくないと思いますよ」
「…人間として、おかしいとは思わない?」
「人それぞれです。泣けないのなら、泣かなくてもいいんです。悲しくなければ、悲しまなくていいんです。無理に泣くこと無くないですか?」
今まで、かけられたことのない言葉だった。やりたいときは、やればいい。なんてことは躑躅森家では許されていなかった。
なにかが崩れた。私の中の大きなものが、大きな音を立てて崩れた。
「ありがとう…本当にありがとう。私も…少し考えてみる」
「…48日向こうまでなら、待ってますよ」
「絶対待っててね」
「はい、では」
そう言うと、霊堂、いや礼堂君はいなくなった。元の場所に戻ったのかな?
バスの中には、ショパンの別れの曲が静かに流れていた。


