午後、礼堂さんの告別式だった。思えば今年で丁度10回目の、告別式だった。
礼堂さんは、あまりしゃべらない無口な人だったという。決して自分の話ではない。
なぜ私の前に現れたのかな。昨日の礼堂君の発言がリフレインする。
「そうですね…死は必ず訪れますから…死が訪れると、楽になるのか…それとも、この世にとどまるんですかね…」
「どこかにはいるんじゃないですかね。それが必ずしも悪いものじゃないと思うんです。心残りがあるにしても、それが達成されたら…きっと幸せになれます」
心残りが、果たされたのだろうか。でも私との会話に、別に解消されるような心残りはないと思う。
「躑躅森さん」
私が思案していると、クラスの人が話しかけてきた。
「は、はい、な、な、なんでしょう」
普段、同年代と話さない私は混乱する。…そういえば礼堂さんと話した時は、こんなにしどろもどろしなかったなあ。
「…佐々木咲楽です。…あのね、躑躅森さん、日向君のこと覚えてる?
…現実的には、覚えていなかったので首を横に振った。
「覚えてないんだ…日向君、入学式で助けてもらったって、お礼言ってたよ」
入学式…そこで思い出す。どこかで聞いたことある名前だとは、思っていた。
「…シャーペン、ですか?」
「うん、これ…日向君は躑躅森さんに憧れてたんだよ…」
今、シャーペンが返ってきた。入学式の日、貸したのだ。なんとなく困っていたから…返さなくてもいいよって言ったのに…
「いいなあ…私には一度も振り向いてくれなかったよ…じゃあね」
佐々木さんは、憂いを帯びた目で、儚そうに笑って、駆けていった。
告別式の後の、お焼香の臭いが、まだ漂っていた。


