「……おじいちゃん」
…来年迎える、ナツに会えない夏は、どんなものだろう。
考えただけで寂しくて、苦しい。
おじいちゃんも、こんな気持ち、だったのかな。
今も、そうなのかな。
ナツの笑顔が、目の奥に映る。
…ねえ、おじいちゃん。
私はおじいちゃんを真っ直ぐ見つめて、口を開いた。
「…私、この季節がすごく好き」
おじいちゃんは、しわのある顔で、柔らかく微笑む。
「…今年の夏を、目に焼きつけて来なさい」
私は、部屋を飛び出した。
毎年、夏の日が来るたびそうしていたように。
サンダルに足を入れ、玄関の扉を開ける。
そして、走り出した。
眩しく光る太陽が、私を焼く。
走らなきゃ。
走らなきゃ。
炎天下、蒸せるような暑さのなかで、私は走る。
一瞬さえ、過ぎるのが惜しい夏の日。
肌に浮かぶ汗が、風に冷たくなっていく。
蝉が鳴く、木々の下で、駆ける。
毎年、何度も駆けたこの道を。
君を想いながら駆けた、この道を。
…導いてくれる、この道を。
君がいる海へ。
君が輝く、海へ。
時折躓きながら、陽炎がゆらめくコンクリートを駆ける。
海岸のそばにつくと、ちょうどタンクトップ姿で砂浜を歩くナツが見えた。
お店、休憩時間なのかな。



