「…………」
私は静かに立ち上がると、部屋を出て、階段を降りた。
「おじいちゃん…?」
リビングの扉を開けると、おじいちゃんは変わらない笑みで、私へ振り返った。
テレビの時刻は、さっき家に戻ってきた時間から、一時間ほど経っていた。
「…どうした、未海」
おじいちゃんの優しい声を聞いていると、何故だかまた、涙が出てきた。
スカートを握りしめて、唇を噛みしめる。
「おじいちゃん」と、震えた声が出た。
「…私、どうしたらいいのかな…」
そのときようやく、自分がどうしていいかわからなくなっていることに気づいた。
おじいちゃんは私の言葉に、目を細める。
そして、静かに口を開いた。
「…今年の夏は、今年しか来ん」
おじいちゃんは、目を細めて窓の外を見た。
…その目は、少し切なそうで。
「…次の夏には、会えん人だって、おるんじゃよ」
…その目の奥に映っているものが、私はなんだかわかる気がした。
おばあちゃんは、四年前の冬、次の夏を迎えることなく亡くなった。
いつか、お父さんが言ってた。
この町は、おじいちゃんとおばあちゃんの地元で、ふたりはあの海で出会ったって。
だから、ふたりにとってこの季節は、すごく大切で。
きっと、おじいちゃんが夏に私達を呼ぶのは、そのせいなんだろうって。



