ほんと下手なクロールだけど、ばしゃばしゃと懸命に足を動かす。
やがて息つぎがうまくいかなくなって、顔を水面から出した。
…あれ?
見ると、そこはさっきより少し砂浜から離れた場所で。
…これって…
ちょっとだけ遠くなった砂浜にいるナツを見ると、明るい笑顔。
…うそ。
泳げたんだ、私。
海で、泳げたんだ…!
ばしゃばしゃと足を動かして、また下手なクロールでもといた場所に戻る。
顔を上げると、眩しいナツの笑顔が、視界に広がった。
『やったじゃん!ちゃんと海で泳げてる』
…嬉しい。
自分の名前が、今すごく好きだと思った。
思わず涙がでてきて、ナツが濡れた頭を撫でてくれる。
…ぜんぶ、ぜんぶ。
『…ナツの、おかげだよ…』
鼻をすすりながら言うと、ナツは目を見開く。
眩しい太陽が照りつけて、私を焼く。
…この季節も、海も。
『好きになれたの。ナツのおかげだよ…っ』
涙を溜めた瞳で笑って言うと、ナツは本当に嬉しそうに笑った。
『俺も、嬉しいよ。夏に、未海が楽しそうで』
…ああ、眩しい。
太陽の光が海に反射して、キラキラと輝いていた。
*
「……あれ……?」
目を開けると、頬に涙が伝っていた。
…いつの間にか、寝ていたみたいで。
気づくと、壁に持たれて床に座っていた。
真上の窓から、風がさわさわと吹いている。



