『ナツは!?』
哲さんに訊くと、複雑な顔をされた。
『…言いにくいんだけどなぁ、未海ちゃん。ナツ、今年はバイトしてないんだよ』
えっ……
『なんで!?』
『受験生、だとよ』
…あ。
そっか。ナツは、今年三年生で…
…私も、なんだけど。
『じゃあ、どこにいるの?』
哲さんは『うーん』と難しい顔をする。
…会えないの?
ナツに、会いに来たのに………
そのとき、哲さんが『お』と声を上げた。
『ナツ!』
…えっ。
すだれのほうに目を向けると、それは会いたかったひとで。
『ナツ!!』
思わず叫ぶと、私に気づいて目を見開く。
ナツは、半袖のTシャツを着て、そこに立っていた。
『…未海?』
『そうだよ!』
心なしか疲れたような、元気のない顔。
けれど久しぶりに会えた大好きなナツに、私は嬉しさを隠しきれなかった。
会えた。よかった!
ナツはしばらく私を見つめたあと、苦い顔をした。
…え?
『…俺、家に戻る』
ええっ?
『な、なんで!?』
『勉強するんだよ』
それはわかるけど!
店を出るナツを慌てて追いかけると、やがてその背中はピタッと止まった。
そして、私へ振り返って。
『…お前も、じゃないの。勉強しなきゃいけないのは』
…ジトっとした、目だった。



