このまま教室にいたって、そりゃ花火は見れるけど。
いくら約束したとは言え、先生と花火を見る気になんかなれない。
たぶん、まだデパートの女の人のことが引っかかってるのと、さっきの胸の痛みのせい。
あたしに背を向けたままの先生にバレないように教室の外へ向かったのに。
「お前、俺から逃げられるとでも思ってんの?」
相変わらずこっちを向かない先生から、不機嫌な声が飛んでくる。
この声、あたし苦手だ。
足が強張って動かなくなるから。
あたしも先生に背を向けてしまったから、今彼がどういう状況なのかは分からない。
それがまた、ここから1mmでも動いちゃいけないと思わせる。
「・・・こっち、来い。」
ゆっくりと、だけど確かに低い声が響いて、あたしの足は吸い寄せられるように先生の方へ向かう。
頭の中で、ここで逆らっちゃいけないと警報がなるから。
別に、先生と見たいわけでもなんでもない。
変な言い訳を心の中で繰り出しながら近づいて、先生の少し後ろで足を止める。
それでもやっぱり、先生はあたしの方を見ようとしない。
じっと空を見つめながら、窓に寄りかかってるだけ。
・・・と思ったのに。

