声の主が誰かなんて、振り向かなくたって考えなくたって分かる。
「もうすぐ始まんぞ。」
「は・・・?」
だからね、主語とかそういうのちょうだいったら。
訳が分からないという顔をして振り向けば、先生は窓の外を視線で示す。
だいぶ暗くなった空を見て、なるほどと思い当る。
「花火、ですか・・・。」
正直、今先生と花火なんか見たくない。
「杏子!!そろそろ花火始まるよ!!」
こんなときに限って空気を読まない珠樹が、かわいらしい笑顔を向けながら叫ぶ。
「・・うん、分かった!!すぐ行く!!」
チラッと先生を窺いながら叫び返せば、小さく頷いた珠樹は走って行った。
学校祭の終わりを告げる花火は、全校生徒がそろってグラウンドで見るのが通例だ。
それにも関わらずまるでグラウンドへ向かおうとしない先生は、窓に寄りかかって外を眺めている。
「・・・あの。」
「あ?」
恐る恐る声をかけてみても、返ってくるのは不機嫌丸出しな声だけ。
しばらくどうしたものか考えていたけど、ため息をついて足を動かす。
「・・どこ行くんだよ、あんこ。」

