しっかりとあたしを両腕で抱き止めてくれたのは、只今絶賛噂の人・春市雄祐先生でした。
「杏子!!大丈夫!?」
慌てて駆け降りてきた珠樹が、心配そうな顔をしてあたしの横に立った。
「うん、平気。先生、ありがとうございました。」
周りの目が痛いので、とにかく早く離れようとお礼を言う。
「俺は大丈夫だけど。・・・・・・よっ、と。」
「え、ちょ・・・。」
離してくれるのかと思えば、またあたしの体は宙に浮いて、そっと下ろされた先は踊り場。
「気をつけろよ。」
キュンっ・・・・・・。
あの殺人スマイルを見せて、子供にするみたいに頭に手を置かれてしまえば、心臓が変な音を立ててもおかしくないと思う。
軽快に階段を駆け上がって行く先生の後姿をポーッと眺める。
「杏子!!」
珠樹に肩を叩かれて、ハッと我に返る。
「チャイム鳴っちゃう!!行こう!!」
少し先を駆ける珠樹の後ろからあたしも必死に追いかけて、チャイムが鳴る3秒前に教室に立ったのだった。

