「杏子。ちょっといい?」
次の日の放課後。
真野さんグループの女子3人はいるわけもなく、4人で作業をしていた時の事。
「うん。どうかした?」
ベニヤ板にペンキを塗っていた手を休めて立ち上がれば、珍しく神妙な面持ちの珠樹がいた。
「ほんと申し訳ないんだけど、弟が熱出しちゃって帰らなきゃいけなくなっちゃったの。先上がっていい?」
ごめん、と顔の前で両手を合わせて見せる。
「うん、もちろん。ひろくんこの時期弱いもんね。」
珠樹の弟のひろくん---宏樹くんは13個も年下の4歳だ。
もともと体が弱く、とくに季節の変わり目にはよく風邪を引いている。
両親が共働きのため、ひろくんの面倒を見るのは珠樹の役目になる。
「明日倍くらい働くから!!ほんとごめんねっ。」
慌ただしく荷物をまとめて教室を出て行く珠樹を見送った。
よいしょ、と腰を下ろしてまたペンキを塗り始める。
そろそろ時計は5時を指そうとしていて、ちらほら帰る人が出始める。
「・・・・おい宮古。」
「ん?」
同じ係の男の子に話しかけられて、手を止めることなく返事を返す。

