淡く儚い月に見守られ

「そんな事言わないで何とかしてくださいよ、先生は遥翔を見捨てるんですか?」

「わたしだって助けたいです、でもどうにもならないんですよ。医師としてこれほど悔しい事はありません! そこで提案なんですがうちの病院には緩和医療と言うものがあります。そこでは病気を治すための新たな治療は行いません。ただ残り少ない命を病気の痛みや治療の苦しみから解放してあげるところです。その際には緩和病棟に移っていただくことになります。一度考えてみてください」

最後通告とも思えるこの提案に五十嵐はすぐには納得する事が出来なかった。

「ちょっと待って下さい、病気を治す為の治療はしないってどういう事ですか! それってやっぱり見捨てるって事じゃないですか、お願いだから見捨てないでください」

「決して見捨てるわけではありません。このまま治療を続けても遥翔さんは病気の痛みや治療の苦しみで辛いだけです。治る見込みがあるのでしたらそれでもいいでしょうが、悔しいですがもうその見込みはありません。それでしたら治療の苦しみから解放してあげ、病気の痛みも和らげてあげた方が良いのではないですか?」

「分かりました、少し考えさせてください。社長とも相談してみます」

その後五十嵐は事務所の社長である岩崎と相談し、遥翔をこれ以上の苦しみから解放してあげられるのならとこの提案を受け入れる事にした。