藍よりも深く

その日、まことはいつも以上に笑顔で接客をこなした。

なにも考えたくなくて、仕事に集中したのだ。


バイトを終えて携帯を見ると、案の定直人からの着信が何件かあったが、折り返す気にはならなかった。

いつもより張り切って仕事をしたせいか、それとも考えすぎたのか、その日はひどく疲れていて、ご飯も食べず、着替えもせずに眠りについた。



その日以降、直人からの電話には出なかったし、訪ねてきても居留守をつかった。もちろん、メールも届いたが、見る前に消去した。

なにも聞きたくなかったのだ。
自分の目で見たことがすべてだったから。

直人とたくさんの時間を過ごしたアパートにいるのがつらくて、卒業と同時に本店の近くへと引っ越した。

直人からの連絡がくるのが怖くて、携帯も変えた。
最初はお店までくるかも、と怯えていたが、よく考えれば、妻と一緒に通った店にまことを訪ねてくるはずがない、と思うようになったし、実際に直人が現れることはなかった。