藍よりも深く

電車を降りても、すこしでもはやくお店へ向かいたくて、いつもより早く歩いた。

もし、急がなければ、私はあんな悲しい思いをせずに住んだのかもしれない。













本店が見えてきた頃には汗ばんでいて、そのままお店へ入るのは憚られ、入り口の手前で息を整え、ハンカチで額を押さえた。


本店は路面店になっていて、入り口はひとつしかない。
お客様の出入りも、スタッフの出入りも、桜の木の1枚板で作られたドアを使っている。


扉を開こうとノブを握った時、内側から扉が押される感覚がした。

お客様だと思ってノブから手を離し、扉が開くのを待っていると、店内から出てきたのは、直人だった。

私がバイトにくるから、直人はここにきたのだろうか?

まことは一瞬考えたが、すぐに頭を横にふった。違う、わたしは今日本店出勤ではなかった。それは直人も知っているはずだ。

じゃあなんで?

まことが頭の中で考えながら、直人のほうを見ていると、直人と目があった。

そして、瞬時に顔を曇らせた。