藍よりも深く



『いらっしゃいませ、笠原様。お待ちしておりました。』

予約の時間の少し前に、笠原様がいらっしゃった。横には、ご友人と思われる男性。

『まこちゃん、こっちに来て。笠原様のご友人、オーダーメイドをご希望みたいなの。私は笠原様のリングをお見せしないといけないから、お願いできるかしら?』

「はい、かしこまりました。」

ご友人の元へ向かう。

「おまたせしました。こちらへどう……」

言いながら顔を上げると、そこには予想外の顔。この顔を私は知っている。大学生の頃付き合っていた直人だ。

「直人…。」

『まこと、久しぶり。変わってないな。』

「なお…高橋様、こちらへどうぞ。」

直人はなにか言いたげだけど、何も聞きたくない。

直人は平気な顔をしてこっちを向いてる。私はちゃんと笑えているだろうか?ちゃんと接客できているだろうか?

私の中では直人との思い出はまだちゃんと整理できてないのだ。

直人は、大学1年の秋から就職する直前まで付き合っていた相手だった。

あの日まで、私は本当に直人を愛していて、愛されてると思っていた。

あの日を境に、私は男の人を受け入れられなくなったのだ。