藍よりも深く

「中西様、なにかお忘れ物ですか?」

『いいえ、まことさん、まことさんに渡したいものがあるのよ。』

中西様がおっしゃると、突然裕子さんが入り口までやってきた。

『まこちゃん、これ。』

手渡されたのは小さな箱。


「どういうことですか?」


『まことさん、いいから、あけてみて。』

「は、はい。」

ドキドキしながら箱を開けると、そこにはピアス。しかも、これは既製品にはないデザインだ。

『まことさん、今日で私が初めてあなたにオーダーメイドをお願いしてからちょうど1年なのよ。それは、私からの感謝の気持ち。裕子さんに手伝ってもらって、まことさんに似合うデザインでつくってもらったの。つけてくれるかしら?』

箱の中のピアスは小さいお花のモチーフ。真ん中にはルビーが入っていた。

「中西様…そんな、こんなすてきなもの、いただくわけには…」

『まことさん、これは私からの気持ちよ?受け取って頂戴。あなたにつけてもらうために生まれてきたこのピアスの行き先をなくさないで。』

「中西様…ありがとうございます。大切にしますね。裕子さんも、ありがとうございます。」

『ふふ、すてきなピアスでしょう?中西様、わざわざまこちゃんが休みの日を狙って、デザインの打ち合わせにきてくださってたのよ。』

『裕子さん、私のわがままに付き合ってくれて感謝しているわ。』

ふたりが私の知らないところでこんなサプライズを用意してくれていたなんて、私は幸せなスタッフだな。

「本当に、ありがとうございました。中西様、これからもよろしくおねがいします。」

『こちらこそ、いつもありがとう。またくるわね。』


「ありがとうございます。」
あらためてお辞儀をしながら中西様を見送った。