一節 全ての始まり 第一話 名も無き逃げ出し旅

 暗闇の中、二人の少女が月明かりに照らされ王国を駆け抜ける。
『タマミール様が逃げたぞ!』
『おまち下さい!』
 そのあとを大量の兵士が追う、だが少女たちの姿は月が雲に隠れると同時に消えてしまった。
『…仕方ない、王宮に引き返すぞ!早急に王女様に報告しろ!』
 二人の少女を見失った兵士たちは諦めて引き返していった。
「ふぅ…うまく巻いたかなぁ?」
 床にペタリと座り込み、息を整える金髪碧眼の少女。このオクトミーラ王国の現王女の娘、ラミュウ・タマミールである。
 タマミールは隣にいる少女に問う。
「そうですね、ちょうど良いタイミングで月が隠れてくれました」
 あまり感情が込められてはいない言葉を発しながら周りをキョロキョロと警戒する。この黒髪の少女はタマミールの専属ボディーガードである、リン・チーダだ。
 リンは兵士がいないのを再度確認し、立ちあがっ…
   グッ
「・ ・ ・」
 立ち上がろうとしたリンの足に不気味な感触が伝わってきた。リンは足に当たったものは何なのか確認しようと目玉が取れるほど全開にしたが、暗闇なのでよく見えない。
「どうしたのリン?目が全開すぎてエグイよぉ?」
 タマミールに(いろんな意味で)心配されたリンは慌てて目を通常の開度にした。
「失礼いたしました、妙なものが足に当たったもので…」
 タマミールは一回きょとんとして
「よし、寝るかぁ」
 見て見ぬフリならぬ聞いて聞かぬフリをした。リンもどうすることもできないので「そうですね」と言って目を瞑り、明日を待った。
   次の日の朝
「リン!?起きてぇ!」
 タマミールがリンの身体を乱暴に揺する。
「…どうされまし…!?」
 目を覚まして早々驚かされる二人、その原因とは…
「み…みずー」
 二人の前に焦げ跡が見える服を着た少女が倒れて水を求めていたからだ。
「タマミール様、逃げますか」 
 リンの判断=逃げる
 だが、タマミールの判断は、この少女を見捨てるような判断ではなかった。
「よしっ!」
 なぜだろうか、突然どこかに向かって走り出したのだ。
「…タマミール様!?」
 見捨てられたのかと焦るリン。が、しばらくすると、リンを見捨てたかのように見えたタマミールが戻ってきた。
「水だよぉー!」
 大きなバケツを抱えて。
   ボジャァアァァァァ
「…一体何のつもりですか、タマミール様」
 空になったバケツを持って笑うタマミール、けしからんとリンがしかろうとしたそのとき
「ふぅ~生き返ったー!水ありがとう!ほんっとに助かったよー!」
 リンの前に倒れていた少女がムクリと起き上がり、タマミールに抱きついた。
「…気安くタマミール様に触れて…」
「別にボクは大丈夫だよぉ、減るものじゃないし」
 タマミールはへらっと笑うが、警戒心が強いリンはそうはいかないのだ。
「駄目です!名も知らない人なんか滅相もない!今すぐ離れてください!」
 とリンがサバイバルナイフを取り出すと、少女は慌ててタマミールから離れた。
「ワタシは安全☆健全だよー!」
 登場初っパナから危険人物にしか見えないけどね。
「どこが安全なんですか」
 リンが少女を睨む。
 少女はリンに笑いかけ、掛けているフレーム眼鏡をくいっと上げた。
「まぁまぁ、そんな睨まないで、ワタシの名前は、ナツリィ・シーモン、一応魔法使いだよー!」
 ナツリィ・シーモン。茶髪にちょこんと結んである黒いリボンが特徴だ。
「魔法使いなんてなおさら危険ですよ、魔力を持ったものはその気になれば、なんだってできるのですから」
 決して心を開かないリン。一方タマミールはナツリィに向かって友好的な視線を向けている。
「ボクはタマミールっていうんだ!魔法使いかぁ…なんかカッコいいねぇ!」
「タマミール…長いからタマミって呼ぶねー!」
 すっかり意気投合している。その光景を見たリンはさらに頭に血を滲ませた。
「何勝手に名前を公表しているのですか!?」
 荒ぶるリンにナツリィが笑いかけて質問をする。
「アナタの名前は?」
「タマミール様のボディーガードである、リン・チーダですが!」
 でも仲間はずれは嫌だから自己紹介はする。
 だがまぁ、そんなところでリンの警戒がとけるわけではないのだけれども。
「ところでナツリィ様、あなたはなぜこんな場所で行き倒れているのですか?本来魔法使いは魔法学校という特定の場所で魔術の使い方を習っているはずですよ?」
 リンが皮肉つぽくナツリィに問う。だがこんな質問でへこたれる魔法使いではなかった。
「なぁにあんなとこすぐ飽きたよー!今はちょいと探し物をしててねー」
 前向けに受け止めて話を変える。これぞポジリィ(ポジティブ&ナツリィ)
「その探し物って何なのぉ?」
 さらっと話に流されてしまうタマミール。この人絶対に通販で失敗する。
「えっとねー、なんとかなんとかっていう腕輪なんだよー」
 なんとかなんとかじゃ名前のカケラも見つからない。
「そんでねー、何でも願いが叶っちゃう腕輪なんだよねー!」
 「願いが叶っちゃう」と聞いた瞬間。二人の目が輝いた。
「なんでも叶うのですか!?」
「ほしい!」
 その目の輝きといったら…ざっとダイヤモンドくらいかな?
「でもね…ある場所も名前もわからないんじゃねー」
 ナツリィがアゴを支えて悩む、そこでタマミールが予想通りの提案をする。
「じゃあボクたちも腕輪探すの手伝うよぉ!王宮飛び出してやることもないし!」
 その瞬間ナツリィが「かかった!」と言うような顔をした。
「タマミール様!?コイツ今「かかった!」っていう悪い顔しましたけど!?」
「ふふ、よろしくね!二人ともー!」
「…はぁ、何かあったら即、殺しますからね」
 すました顔でなんてことを言うんだ、この子は。
「リンちゃん怖っ!」
「いつもこんな感じだからそこよろしくねぇ」
 そうして異個性の少女三人の“名も無き旅”が始まったのであった。