『どーしよー』
電話を取って彼女の開口一番の台詞がそれだった。
いつもより元気のない声。
「どうしたんだ?」
『誠ちゃんに嫌われた。』
其の言葉に身体と感情が同時にフリーズした。
けれど一瞬で持ち直して彼女に声をかける。
「何があったんだ?」
『ケンカ、してた。誠ちゃんって人が薫と。』
えっと、多分殴り合いのあの喧嘩の事かな。
僕と薫は反りが合わないからな。
好きなことも、女の好みも一緒で。
『止めようとしたら、怒鳴られた。』
そう言えば今日は彼女と初めて怒鳴りあった日だった気がする。
非があったのは僕だ。友達‐薫を殴ったのは僕だ。
『お前なんか、大嫌いだって言われた。』
だんだん声が小さくなっていた。
僕は止めようとしてくれる君にまで八つ当たりした。
今なら思える。あの時の僕は大分馬鹿だったなと。
喧嘩してる最中に止めようとしてくるのに腹が立って。だから、ついキツイ言葉を言ってしまった。
薫との喧嘩の内容は彼女の取り合いだったんだけども。
『私は誠ちゃんに嫌われたかな。』
彼女が、僕の言葉でこんなことを思っていたなんて思いもよらなかった。
「君は…どうなんだ。」
『え?』
「その子のこと、嫌い?」
自分で自分の事が嫌いかどうか聞くなんて僕は何を言ってるんだろう。可笑しくなって笑いが込み上げてきた。
でも、今笑ってしまったら彼女は気を悪くするだろうから、耐えたけど。
彼女は無言で、僕も無言で。暫くお互いに無言だったけど、少しして小さな声が聞こえた。
『嫌いじゃない』
寧ろ.・・・その先の声は聞こえなかったが電話の向こうで彼女の小さな泣き声が聞こえた。
『好き、だから、嫌われたくない』
まさか、こんな形で彼女の本音が聞けるとは思わなかった。僕にとって喜び以外の何でもないものが。また可笑しくなって、今度は僅かに笑ってしまった。
その声が聞こえたらしく、彼女は抗議の声を上げた。
「すまない」
『貴方からしたら他人事でしょうけど、私は本気で悩んでるんだから』
「分かってるよ」
それに他人事なんかじゃない。
これはれっきとした僕と彼女の問題だ。
『どうしたらいい?』
「さぁね」
『考えてくれないのね』
「そこまで優しくはないさ。自分の問題だろ?ちゃんと自分で考えて解決しなさい」
少し説教ぽくなってしまったかな。でも、こればかりは彼女が考えるしかない。あの時、彼女が謝ってきたのは僕の指示じゃないと思いたいんだ。
『わかんないんだもん』