『もしもし?』
昨日とはほぼ同じ時間の深夜。鳴り響く携帯の音で目を覚ましそれを開く。
昨日と同じく非通知設定の番号に思わず口がゆるみつつ電話に出る。
聞こえたのは懐かしい声。
『もしもし?』
「もしもし。」
『昨夜ぶり。』
「あぁ。」
控えめに笑う声。
何も知らない彼女はただ不思議な尾の体験に胸を躍らせているのだろうか。
『今さらだけれど、貴方名前は?』
「君が知る必要はないよ。」
既に君が知っている者と同姓同名...というかその者、本人なのだから。
嘘をつくのは嫌いだから偽名を名乗るなんてしたくない。
まず、僕が彼女に嘘をつくなんてできないのだ。
「君の名前は?」
『貴方が言わないなら言わないわ。不平等だもの。』
不貞腐れたようなその声音に思わず笑みがこぼれる。
『昨日、貴方が言ってた通り思いもよらないことを言われた。』
「好きだ、って?」
電話越しでも聞こえる息をのむ音。
『どうして、そう思ったの?』
「思いもよらないことって告白しかないじゃないか。昨日のはただの勘。で、会長さんどうだった?」
『顔、赤くなってていつもから考えられないような様子だった。』
そう、あれは26日のことだった。
会長の隼人がいきなり彼女に告ると言いだしたのを今でも覚えている。誰にもぶつけれない想いをペットボトルにぶつけ二・三本ぺしゃんこにしたんだっけ。
放課後とりあえずジョーダットと薫と三人で告白現場に先回りして茂みの横で見ていた。
いつも冷静沈着であんまり感情を表に出さない隼人が赤面してるのを見て三人で必死に笑いをこらえていたっけ。
『ねぇ、大丈夫?』
「...いや、さぞ面白い光景だったんだろうね」
いけない。思い出していたせいで暫く無言だったみたいだ。彼女の心配そうな声が聞こえる。
『まぁ、ね。キッパリ断らしてもらったけれど。』
「そうか。」
しかし、隼人がふられると言う事は彼女はいったい誰が好きなんだ。
『ふわぁ・・・眠いわね。』
「今日はこれまでにしようか。明日も電話かけてくれるね?」
『もちろん』
電話越しの表情がありありと目に浮かぶ。
本当は僕だってもっと話したい。しかし二人とも学生だ。これ以上の夜更かしは学校生活に支障がでてしまう。
「また....明日ね」
明日、話せる保証など何処にもない。だが、彼女の声を聞いた瞬間、無意識にそう言ってしまった。
『約束ね!それじゃ、おやすみなさい』
「おやすみ」
電話が切れた。僕も学校があるし、寝よう。布団に入り目を閉じる。
おやすみなさい。
彼女の言葉を思い出す。
明日もかかるだろうか、話せるだろうか。....また、おやすみと言ってくれると良いな。
心の中でもう一度、おやすみと呟いて意識を離した。
(丁度、話していた夢を見た。)
(笑顔の皆に彼女。その場にいた僕も笑っていた。)
(もう戻ることの出来ないあの頃)
(戻れるハズもない日々が愛おしい。)