『もしもし』
弾んだ声で皆で寄り道をした、と和気藹々と話す彼女。
あと僕と彼女が話せるのは今日を入れて2回。
僕が彼女と話せるのは、声が聞けるのは…明日が最後。
そんなことを知らず、いつも通りの彼女が少し羨ましい。
『それで薫がポッキーくれたから食べたのに誠ちゃん怒ってさぁ。』
「…ねぇ」
『どうしたの?』
明日で最後。それでこの毎晩の奇跡が終わってしまう。何の変化もない毎日に、後悔と罪悪感を背負う日々に戻ってしまう。
過去に間接的に干渉できる立場にいるのに、変えることが出来ないまま。
はたして変えることができるのだろうか?
それとも、わが身を守りたいがために言い出せずにいるのか。
「いいことを教えてあげようか」
『いいこと?何?』
本当は分かってるんだ。僕がどんなに足掻こうとも過去は変えられない。
実際、僕が何を言おうと僕の意志以前に彼女の思考がある。
だけど、このまま終わってしまうのは癪じゃないか。勝手に始めたくせに勝手に終わらせようとしてる。
しかも、計算されたかのようにあの最悪の日に。
いらない慈悲をかける神の掌の上で踊り回された気分だ。このままじゃ、ダメだ。
「君の好きな相手はね」
『うん』
「君のこと、好きだよ」
『…えっ!?』
はぁ?と彼女らしいポカンとした驚き方に思わず笑う。
『え、あ…ど、どういう意味?何故、誠一がそんなこと…』
「さぁ?そこは黙秘権を使わせてもらうよ。ただ…」
僕の言うことは全て正しい。そう言うと小さく息を飲む音が聞こえた。
そう、僕の言うこと、することは正しいんだ。だってずっと辿ってきた道だから。
…一つの過ちを犯した以外は。
『も、もし違ったら…』
「違わないさ、断言しよう」
『…でも』
お願いだ。あの頃の"僕"に、君のその気持ちをそのまま伝えてくれ。
君が"僕"の過去にない行動をすれば。過去が変われば未来が変わる。それは森羅万象の理。
君が僕の側にいてくれる未来が掴めるかもしれないんだ。
『…分かった、告白してみる』
「!」
彼女からの告白。"僕"が体験していない出来事。"僕"の知らない過去。これで、少しでも未来が変われば、淡い期待が胸に押し寄せてくる。
『誠一は不思議な人ね。私の友人を知っていたり、その日の出来事を言い当てたり、誠ちゃんの気持ちを断言出来たり…』
もしかして、と続く言葉に無意識に目を閉じた。
『誠一には予知が出来る能力があるのかもね!』
「…予知、か」
そんなもの…持っているのなら君を犠牲になどしなかったはずだ。
『いいなぁ。』
真に見たいもの、知りたいことが分からないんじゃ意味がない。
「…いらないさ」
『え?』
「役にたってほしい時にたたないんじゃ、ただのゴミだ。」
あの時、もし予知できる能力が僕にあったなら。