テーブルの上にグラスを置いた綾は、「ちょっと待っててね」と、バスルームのほうに行った。

ドライヤーの音が聞こえてくる。

ここは綾の住んでいる部屋ではないけれど、綾の私生活の空間に入り込んだような感覚を味わってくすぐったい感じがした。

ふんわりと乾いた髪で綾が戻ってくる。

クローゼットの中から服を取り出し「着替えてくるから」とベッドルームへ行き掛けたが足を止める。

くるっと振り返って自分のパジャマの裾を引っ張って見せ、「んー、別にこのままでもいいかな?」と聞いてくる。


「全然大丈夫」


俺は可愛いなぁという言葉を飲み込み、代わりに右の親指を立てて見せた。

綾がにっこり笑い、取り出した服をクローゼットに戻す。

この部屋に最初に入った時の二人のぎこちなさはなく、いつの間にか普段のメールで会話するときの感じに近くなっていた。