「どこに泊まるの? 雨だし、送っていくよ」

「大丈夫。すぐ近くだから。恭のほうこそ早く帰らないと。黒磯まで雨の中の運転なんだから」


微かな俺の期待を綾の言葉はすっかりと打ち消していた。

それは綾らしい気遣いの見える言葉でもあった。

でも、だめだ。

今、こんな霧のかかったような気持ちのままで綾と離れたら、俺はまた不安や切なさに囚われ続ける。


「綾に話したいことがあるんだ。車の中ででもいいから」


綾は少し考えて、ブルッと身震いをした。


「寒い?」


俺が訊くと、左右の二の腕を擦りながら「少し」と答えた。


「この格好のままじゃ二人とも風邪引いちゃいそうだね」

「俺は大丈夫だけど」

「とりあえず予約してある部屋に行ってシャワーを使おっか」


喉の奥が鳴ってしまいそうになるのをグッと抑えて、俺は「いいの?」と訊いた。


「うん。恭に風邪引かせたくないし」


さらっと答える綾の表情はいつもと変わらない笑顔だった。