もう姿が見えなくなっても、綾の視線は同じところを見つめていた。
俺は、綾の濡れた髪を見ながら大輔さんが告げた言葉を巡らせていた。
もし、綾に同じ台詞を言われたら、と思うと、じわりと胸に痛みが広がる。
大輔さんはそれでも上野のそばでずっと彼女を見ているのだ。
出来ることなら上野の記憶から『高坂恭司』の部分だけ消してしまいたいと思った。
俺の存在さえなければ、上野と大輔さんは何の問題もなくなるはずだろう。
自分の存在を消してしまえれば、なんて思ったのはこれで二度目だ。
初めて関係を持った人を泣かせて別れた時だ。
「上野さんって――」
綾がポツリと呟く。
「とても正直な人なのね」
俯いて、小さなため息とともに微笑む。

