静かに綾が俺の胸に手をつき、そっと俺をはがしていく。


「ごめんね――。甘えちゃった」


綾は微笑んだ。

俺はもう一度抱き寄せようとした。

でも、今度は綾がするりと逃げた。


「恭はこれからの人だもの。わたしがこれ以上、甘えてちゃいけない」


(――どうしてそんなことを言うんだ?)


「甘えてなんかいない。甘えてくれたほうがいい。今日だって、今だって俺が――」


綾は首を横に振る。


「恭は優しいから、一人になったわたしを放って置けないんだよ」

「ちがう、そうじゃない」

「きっとこういう人が初めてだから関心が向いているだけで、気付かないだけかもしれない。恭とわたし、釣り合わないもの」

「それはおれが若過ぎるから対象にならないってこと?」

「その逆。わたしは恭にふさわしくない」


綾はきっぱりと言った。