「急に降り出すんだもんなぁ」

「ほんとね」


髪をかきあげて、手に付いた水を切りながら綾の姿を見た俺は息を呑んだ。

瞬間、胸の奥がキリリと痛んで、小指の先までからも血液が胸に集まってくるような感覚に襲われた。

俺は綾から視線を外し、自分の足元を見る。

右手で自分の胸をさする。


(いてぇ、マジでいてぇ。こんなの初めてだ――)


俯いたままの俺の顔の前にハンカチが差し出される。

顔をあげると綾が首を傾げながら微笑んでいた。


「ハンカチじゃ拭ききれないけどね」


(もうだめだ)と俺は目を閉じる。

次の瞬間には綾の腕を強く引き寄せ抱き締めていた。


「きゃ」


ビクッと綾の肩が震えたけれど、俺はさらに強く綾を抱き締めていた。

すると綾の体から力が抜けていったように感じた。

俺は離したくなくて綾の髪を頬で撫でるようにしながら抱き締め続けていた。