俺は綾と並んで歩き、駅からメテオまで歩いて行った。


「裏口から、入ってみる?」

「え?いいの?」

「ここって、正面から入ることなんてないんだ、俺」

「お客さんじゃなかったから?」

「まぁ、部室みたいなもん?


綾が笑う。裏口から入っていくと俺に気付いたおやじさんが近寄ってきた。


「おお、本当に来たな」

「まあね。この人、ここのオーナーのおやじさん」

「おい、俺の名前はおやじじゃねーぞ」


綾は笑いながらおやじさんに「こんばんは」と言った。


「恭が女性を連れてくるとはね。どうですか? こんな若造はほっといて、あちらでわたしとお酒など――」


おやじさんが綾に手を差し伸べた時点で俺のチョップを食らわす。


「そっちはもう引退しろっつうの」

「この、クソガキが――」


おやじさんはお返しのチョップを食らわそうとするが俺は華麗に避けてみせる。

綾はクスクスと楽しそうに笑う。

だから、俺は親父さんの次の言葉を聞き流してしまった。

注意深く聞いていれば、避けることが出来たかもしれなかったのに。


「今日はヤスたちも来てるぞ。楽しんでいけや」

「ほんと? 探してみるよ。綾、いこう」

「はい」

俺は綾の手を握り、客席の中に入っていった。