上野は下唇を噛みながら、俺を見た。

少しずつ瞳が光りだした。

泣くつもりなのか?


「その人、女でしょ」


決めつけたように放たれた言葉に、俺も迷いもせずに「そう」と答えた。

今度は少し不安気に俺の顔を覗き込む。


「恭の彼女?」

「違うよ」

「でも、わたしより優先なんだね」

「誰より優先、かな?」


自分で言って、その音を自分の耳で聞いた。

確認するように。


「でも、彼女じゃないんでしょ? そんなの、なんか都合のいい男扱いじゃない? わたしは、恭を一番に想っているよ」


なんだか、気分が悪かった。

上野、アンタに綾と俺のなにが分かるって言うんだ?

自分の価値観で、決め付けるな。


「でも、俺、誰でもいいってわけでもないから」


上野の潤みかけていた瞳が、一瞬にして乾いたように感じた。

そこに俺の携帯電話が振動した。