俺は混乱する頭の中を沈めるように大きく息を吐いた。

綾が携帯電話を盗まれた。

――ってことは当然その電話番号はもう意味を持たない番号になったわけだ。

使われていない理由はそういうことだったんだ。

そして今、俺と綾を繋ぐものが何一つなくなってしまったことになる。

綾から連絡がなければ俺は綾に連絡を取れない。

でも、綾が俺の番号を知るすべがないとしたら?

あんなにも心を占めていた存在の綾と携帯電話ひとつでしか繋がっていなかったことを俺は深く後悔した。

そして、はっとする。

あんなにも心を占めていたって――。

なんで「――いた」って過去形になっているんだ?


『頼むから、百合を責めないでくれ。もう十分後悔しているんだ。お前だって百合の気持ちをわかっているんだろう?』