伊藤泰三。

中学一年生の時、とても中性的な少年だと思った。

中学二年生では、同じ塾に通い始めた。

中学三年生で、クラスが離ればなれになった。

高校生になると、同じ高校に通い始めた。

いつも彼の背中を追いかけていた。

登下校で彼の背中を見つけると、迷わず追いかけて、

「偶然だね。」

と、話しかける。

ちっとも偶然なんかじゃないけど、歩幅を合わせてくれた彼に期待した。

だんだん噂になって、付き合い始めた一年生の秋。

ずっと恋しかった人を手に入れた、私は必死だった。

相思相愛になれるなんて奇跡だ。

毎日が楽しくて希望に満ち溢れていた。

でも、二人の速度にズレが生じていく。

高校二年生。彼は関係を急ぎ始めた。

キスをして、自転車を二人乗りして。

部屋で抱きしめられた。

「触ってもいい?」

「ダメ!!!」

まだ処女だった私は、彼の欲求に応えられなかった。

恥ずかしさや戸惑いから、慌てて断ってしまう。

その態度は、彼の自尊心と信頼感を打ち砕き、

Hなんてしなくても大丈夫だと高を括る私から離れて行く結果を招いた。

高校三年生の春。

もう春だというのに、桜は咲かず、冷たい雨が降る。

いつもの待ち合わせ場所で彼を待った。

どのくらい待っただろうか。

最近は会話も減っていて、イヤなことばかり考えていた。

どうにも泣きたくなって、下駄箱まで引き返す。

そこに彼の靴はなかった。

別の道を通って下校したらしかった。

もう終わりなのだと悟る。

大好きな彼のことだから、触れてくれるなと、案に示されたことが分かる。

もう、そばにいることもできないのだと、言われているのが分かる。

桜が咲いたら、お花見に行く約束をしたのに、

桜は咲かず、また、彼もいなくなってしまった。

大学生になって彼に再会したのは二回生の時。

電車の中で彼を見つけた。