他の女といても、先輩、と大きな声で呼んできた。わざと、名前は呼ばせなかった。

早雪に名前を呼ばれると、胸の奥がざわついた。

その名ではない、と囁かれるような感覚。

それでも早雪はそれに従い、陽を先輩、と呼び、いつも笑顔を向けてきた。それでも、他の女といる時間を邪魔はしなかった。

ただ、呼んだだけだと言い、去っていった。

その細い背を無性に追い掛けたくなった。そして、抱き締めたかった。

そして、大きな瞳で見詰められると、理性などは失いそうになった。

『先輩の身体なら、いい。心は例え違う人でも』

早雪の言うことが理解出来なかった。早雪は陽の腕の下で、ただ、自分は陽が好きだと訴えた。

過去も何もかも関係ない。ただ、今そこにいる陽が好きなのだと。

押し倒した身体は震えることもなく、ただ、大人しかった。抵抗もなく、ただ、陽の頬に手を伸ばしてきた。

そして、初めて気付いた。自分も、本当の自分も早雪を好きなのだと。

ただ、確信がなかった。

もうひとりの自分の感情なのではないかと疑って、それだけだったらどうしようかと迷っていただけだった。

だけど、はっきりと、自分は早雪が好きなのだと気付いた。。そして、それが例え、過去の記憶から来るものでも構わないも思える程に。