鬼神姫(仮)




「漸く気付きましたか」

緋川はふう、と息を吐きながら袖を口許から退かした。下唇に比べて上唇の方が少しだけ厚い。

「そうです。雪弥様を襲う人間の主格は番人の一人なのです。そこから察するに、過去に葛姫を斬ったのもその番人の先祖でしょう」

だからそうでないと判っている銀と陽を呼びつけたのか。だとしても、緋川は昨日、東西南北の番人が揃わなければ意味はないと言っていた。

でも、このことから推測するに、彼等は番人を三人しか集めないつもりだろう。そして此処にはまだ二人の番人しかいない。

「その抜けた穴はどうするんだ?」

銀は緋川の着物の朱色を目にしながら訊いた。緋川の目を見ることが出来ない。理由は判らなかったが、何故か彼の目を真っ直ぐに見ることは出来ないのだ。

緋川は微かに首を動かしてから、小さく息を吐いた。そして、色気を感じられる唇を動かす。

「不本意ではありますが、これも雪弥様の命の為。私が西の番人を引き受けます」

緋川から出た言葉に驚かずにはいられなかった。