雪弥は産まれ落ちたとき、葛姫の生まれ変わりだと称された。

その風貌、備わる力、絶対的な存在。

その為、そんな鬼の神である雪弥が命を落とせば鬼の血族は滅びるしかないのだ。それがどんなふうにかは判らない。

ただ、この世から鬼なるものという存在は消えてなくなる。

ーーだとしも、あの人間達には関係のないことなのだろう。

雪弥は静かに部屋へと自分を連れていく緋川の背を見詰めながらそんなことを思った。

彼らとて、「雪弥」を大事に思っているわけではない。「鬼神姫」を大事に思っているだけだ。

緋川にしろ浅黄にしろ、蒼間だってそれを表には決して出さない。寧ろ、「雪弥」を大切にしてくれているのだと錯覚させる程の扱いをしてくれる。

とはいえ、彼等がそうするのは鬼の血族が滅びるのは困るからなのだろう。

「では、ゆっくりとお休み下さい」

長い廊下を歩き終え、雪弥の部屋の前に着くと、緋川は美しい微笑みを浮かべて言った。