「本当に頼りなさそうなこと」

緋川が雪弥の手を離すと同時に、煩わしそうに口を開いた。その顔はあの二人を歓迎しているものではない。

「……そんなことを言っては駄目です」

雪弥は呟くような声で緋川を小さくたしなめる。それでも緋川はその表情を変えることはしなかった。

「雪弥様。貴女は決して死んではならぬ方です。私が如何様にしても、あの二人を此に留まらせましょう」

ーーそんなこと。

雪弥は何とも言えぬ気持ちになった。

何度も当たり前だと言い聞かされた。番人の存在は鬼神姫の為だけにあるもの。そう思ってきた。

それでも、銀の睨み付けるかのような視線を思い出すと、そうとは頷けない。

「雪弥様は何も気にせずにいて下さいませ」

緋川は漸く美しい顔に笑みを携えた。

私が死ねば鬼の血族は破滅の一途を辿る。それは理解していた。

子孫がいないからではない。それなら、そのときまでに子を成せば済むこと。

そんなことではないのだ。