――ああ、今日も煩くて敵わない。

ざわめく教室の中で鬼頭雪弥(きとう ゆきや)は溜め息を吐き出した。休み時間の為、思い思いに会話を楽しんでいる。

甲高い笑い声にひそひそ話、盛り上がる叫び声。男女のそれが入り雑じるとそれは更に煩さを増す。だが雪弥が煩わしさを感じているのはそれに対してではない。

雪弥は普段は綺麗な弧を描いている眉を下げた。そして二重のはっきりとした瞳を細め、ふっくらとした桜色の唇を尖らせた。それでも雪弥の天性の美しさは損なわれない。

煩わしい。煩わしい。

雪弥は苛立ちを顕にしながら辺りに視線を這わせた。それでも勿論簡単にその正体を掴むことは出来ない。それはまるで己が出来損ないだと言われているようで、更に苛立つ。

「そんな表情してると可愛い顔が台無しじゃない」

不意に掛かる声に雪弥は顔を動かした。その為、黒く長い髪が揺れる。それは滑らかな絹のようできちんと手入れされていることが窺える。